◆平成26年 秋季展より 平成26年10月1日(水)~11月3日(月)

「柏原家伝来名品展」
 開館40周年記念の第二弾として、着物八領をメインに展示しました。これらの着物は、江戸時代後期の柏原家の奥様が所持していたものです。紅綸子の打掛は、よく似た意匠の打掛が文化学園服飾博物館に所蔵されていて、その下絵は円山派の画家が描いたといわれています。着物に合わせて、嫁入り道具の中から、前回展示しなかったものを展示しました。なかでも産椅子(「平成22年春季展より」掲載)は珍しいもので、使っている様子を描いた西川祐信の絵本の挿絵を添えてみました。他に、源氏物語・遊楽図屏風、月岡雪鼎・岸駒の掛軸、歌川広重・月岡芳年・小林清親の浮世絵などを展示しました。遊楽図屏風は17世紀中頃の遊楽図の作例として、しばしば出版物に紹介されているものです。以下、展示品の中から数点を紹介いたします。

平成26年秋季展より 『繻珍松霞に千羽鶴織文様打掛』

 千羽鶴を織り込んだ晴れやかな打掛。
 婚礼にふさわしい意匠の一領。
 製作に3年以上費やしたと伝えられている。

平成26年秋季展より 『紅綸子地水辺に春の花鴛鴦文様絞繍打掛』(部分)

 文化6年(1809)北三井家息女が柏原家に嫁入りの時持参された衣装。
 春の花々が、写実的に刺繍されている。
 下絵は円山派の絵師によるものとされている。

  平成26年秋季展より  

『白綸子地流水に四季花の丸文様絞繍打掛』(部分)

 丸く文様化された花の数は41あり、そのすべてが異なる意匠で、それぞれの花が生き生きとした表情を見せている。

  平成26年秋季展より  

『黒綸子地三笠山に鹿秋草文様絞繍長袖』(部分)
 
 猿丸太夫の「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋はかなしき」(古今集)を意匠化したものといわれている。
 本仕立て前の仮絵羽仕立てのきもの。

  平成26年秋季展より
 

月岡芳年 『官女ステーション着車之図』

  平成26年秋季展より
 

遊楽図屏風(部分)



◆平成26年 春季展より 平成26年4月1日(火)~5月5日(月)

「柏原家伝来名品展」
 開館40周年記念
 伝来の婚礼調度は、柏原家四代目に嫁いできた那波九郎左衛門の娘里代が持参してきたものと伝えています。当館でも一番人気のあるものですが、いつもは部分的にしか展示できません。今回は、厨子棚、黒棚、書棚、貝桶を中心に25点余を展示します。
 絵画では、円山応挙の小襖四面、呉春の襖二面と与謝蕪村、池大雅、応挙、呉春、酒井抱一の掛軸を展示します。応挙と呉春の襖絵は、現在も当時のままの座敷を飾るためのもので、商家に残っている二人の襖絵として珍しいものです。
 浮世絵では、喜多川歌麿、北尾政演、鳥居清長、勝川春章、勝川春英、初代歌川豊国、三代歌川豊国、歌川広重、小林清親の作品を選んで展示しています。柏原家伝来の浮世絵は保存状態がいいのが特徴ですが、特に歌麿と北斎の絵本は、ほぼ当初の状態を保っています。
 以下、掛軸と浮世絵の中から六点紹介いたします。

平成26年春季展より 与謝蕪村  呂恭大行山中採芝図

 真ん中の人物が呂恭です。薬草を採りに大行山に出かけた呂恭は、山中で仙人に会います。二日、仙人たちと過ごして、家に帰ってみると、二百年が経っていたという話です。
 この話は『列仙全伝』という本に出ていますが、それには挿絵があって、そこに描かれている呂恭と二人の従者の姿は、この絵での彼らの姿に似ていて、蕪村は『列仙全伝』の話だけでなく、挿絵も参考にしていたことが分かります。

平成26年春季展より 円山応挙  虎図

 虎は龍と対になって勢いある姿に描かれるのが伝統的です。
応挙もそのような虎を描いていますが、一方で、応挙独自の虎を展開して行きます。
 応挙全盛期の天明三年(1783)四月に描かれたこの虎は、龍とは対にならず、草地の上でくつろいでいて、まさに応挙的な虎の傑作と言えます。応挙は実際の虎を見たことはなかったので、全体的な姿はリアルではありませんが、毛描きによる質感表現は絶妙です。

  平成26年春季展より  

呉春  孔雀図

 呉春は京都の生まれですが、一時、摂津の池田に住んでいました。
池田で呉春の作品を対象にした「掛物講」が開かれ、その記録が『池田人物誌』に記録されています。
披露される掛物の体裁は決まっていて、縦四尺余、絖の唐表具、撥軸の一幅でした。
第二回目の掛物講は天明六年(1786)六月四日で、「松樹に孔雀」が披露され、その表具は「柳茶の絖で明朝仕立て、大一文字は茶の竹屋町」でした。
この特徴は全て本作品と一致します。

  平成26年春季展より  

歌麿 画本虫ゑらみ(えほんむしえらみ)
 
 天明七年(1787)八月十四日の夜、朱楽菅公、大田南畝などが、向島押上あたりの庵崎(いおさき)で虫聞きの狂歌会を開きました。
その時の狂歌に歌麿の絵を添えて、翌年、蔦屋重三郎が出版したのが、この『画本虫ゑらみ』です。
今回、少し遅れて出版された歌麿の狂歌絵本『潮干のつと』も展示しています。
いずれも完成度が高く、独自の画風の美人画で成功する前に、別のジャンルでこれほどの技量を発揮していたのは驚きです。

  平成26年春季展より  

北尾政演  吉原傾城新美人合自筆鏡

 江戸時代後期の流行作家山東京伝は、北尾政演(きたおまさのぶ)という画名で浮世絵を描いていました。
その政演の最高傑作が、天明四年(1784)に出版された『吉原傾城新美人合自筆鏡』です。
当時評判だった遊女の姿を描き、その上に彼女たち自筆の詩歌を載せています。
右の遊女は松葉屋の瀬川で、彼女は崔国輔の詩「長楽少年行」の後半を書いていますが、他の遊女たちは自作の和歌を書いています。

  平成26年春季展より  

鳥居清長  浅草金龍山十境 二十軒茶屋
 
 柏原家伝来の鳥居清長の作品のなかには、他では見られないものも数点含まれています。『浅草金龍山十境』の「二十軒茶屋」もそのひとつです。
この『十境』は天明三年(1783)の作と考えられていますが、前年の作と思われる『浅草金龍山八境』の後を受けていています。
この「二十軒茶屋」に対応する『八境』の図は、従来誤って「仲見世」と呼ばれていました。