◇令和3年 春季展より  令和3年4月1日(木)~5月5日(水)午前10時~午後4時(入館迄) 月曜休館 但し祝日は開館

桜と婚礼調度品展
  桜は、流派を問わず多くの画家たちによって、花見の絵として、桜の名所絵として、あるいは桜だけの絵として描かれてきました。今回は、当館所蔵の屏風、掛軸、浮世絵の中から、岩佐派、狩野派、住吉派、江戸琳派、四条派、浮世絵派の画家たちが描いた桜の絵を展示しました。また、恒例になりました婚礼調度の展示では、柄鏡、鏡台などの化粧道具、遊具の貝合わせ、さらに掃除用具の塵取りなどを展示しました。

一階展示景
一階展示景
 
伝岩佐又兵衛筆遊楽図屏風より花見の場面   伝岩佐又兵衛筆遊楽図より喧嘩の場面
伝岩佐又兵衛筆遊楽図屏風より花見の場面   伝岩佐又兵衛筆遊楽図より喧嘩の場面
 
一階展示景   お歯黒道具
一階展示景   お歯黒道具
 
酒井抱一 桜図   ミニ道具
酒井抱一 桜図   ミニ道具
 
二階展示景   貝合わせ
二階展示景   貝合わせ
 
三熊思孝 桜花図   松村景文  嵐山図
三熊思孝 桜花図   松村景文 嵐山図
 
歌川広重 富士山十六景 東都墨田堤   小林清親 向島桜
歌川広重 富士山十六景 東都墨田堤   小林清親 向島桜
 
◇令和3年 秋季展より  令和3年10月1日(金)~11月3日(水)午前10時~午後4時(入館迄) 月曜休館 但し祝日は開館

秋にちなんだ絵と婚礼調度品展
 今回は、秋をモチーフにした絵画と、嫁入り道具を展示しました。絵画は、春をテーマにした春季展の続編ということになります。
メインのケースには、花車図屏風、他のケースには、「紅葉」、「菊」、「山水」、「鹿」、「月」のモチーフ別に掛軸を十六点、そして、江戸東京の秋の風景を描いた浮世絵版画を十三点展示しました。嫁入り道具は、櫛箱と櫛、眉作箱と刷毛、そして、前回と同じように、貝桶と合わせ貝を展示しました。
  以下、展示作品の中から、数点紹介いたします。

展示風景
 
酒井抱一 楓図 酒井抱一 楓図

前回展示しました桜図の対になる作品です。同じように、抱一と親しかった橘千蔭が自作の歌を書いています。
千蔭が亡くなったのは文化五年(1808)、抱一が「抱一」と署名し始めるは享和三年(1803)。
この作品はその間、抱一四十歳後半の作品ということになります。
同じ構図の桜楓図が、鈴木其一はじめ江戸琳派の画家の作品に見られますが、この作品が出発だったと思われます。

 

酒井抱一 楓図

池大雅 菊図 池大雅 菊図

賛は真宗高田派の僧で歌人の湧蓮(ゆれん)。『近世畸人伝』に、大雅とともに採り上げられています。実際に、この絵を見ながら歌を詠んだのでしょう、この絵の特徴を見事に捉えています。
「いろいろの色に匂ひて咲きくをほのかにみする筆の跡かな」。 大雅の菊図は、初め花弁の垂れ下がったものが多いですが、途中から花弁が車輪のように広がったものが現れ、それが次第に優勢になってゆきます。この作品は大雅の菊図の総集編であるかのように、車輪型のものを主役に、垂れ下がった小さな花も描かれています。

 

池大雅 菊図

  宋紫石 秋景山水図  

宋紫石 秋景山水図

江戸時代の中期に、中国人画家沈南蘋(シン・ナンピン)が長崎にやってきました。彼の写実的な画風の影響を受けた日本人画家たちを南蘋派といいます。宋紫石は南蘋派の代表者で、江戸で活躍しました。南蘋派の特徴は花鳥図に現れます。南蘋派画家の山水図は、明清時代の文人画風のものが多いようです。この作品は、彩色に明清時代の雰囲気がありますが、楼閣を中心とした構図は、日本の雪舟風です。

 

宋紫石 秋景山水図

  東洋 鹿図  

東洋 鹿図

鹿は、秋に伴侶を求めて鳴くことが、歌の題材として好まれ、秋のモチーフとなりました。
東洋(とう・よう)は、東東洋(あずま・とうよう)とも呼び慣わされています。現在の宮城県登米市(とめし)の生れで、はじめ狩野派を学び、京都に来て、円山四条派などの影響を受けました。そのホノボノとした画風は、独特のもので、古さを感じさせません。当時の京都で評価されていたのが不思議に思えるほどです。歌の賛をしている香川景樹は、柏原家七代目の夫人の師匠でした。

 

東洋 鹿図

  橘千蔭 隅田川月図自画賛  

橘千蔭 隅田川月図自画賛

千蔭は建部綾足に絵を学んでいます。本格的な絵画作品はないようですが、自画自賛の作品に、絵の技量が発揮されています。歌は「すみた河月のかつらのちる花を浪によせくとみゆるよはかな」。
絵は、歌を図解するかのように、隅田川の波に、キラキラと反射する月の光が、金泥の点々(写真では見えないかもしれません)で表現されています。

 

橘千蔭 隅田川月図自画賛

  清親 今戸夏月  

清親 今戸夏月

窓ぎわで三味線の糸を締めている女性は芸者でしょうか。異様に大きな窓から見える景色は、千蔭の自画賛の絵とよく似ています。「今戸夏月」と題されていて、今戸橋の北側にあった有明楼とも推定されていす。そのあたりの地形は、今回展示中の歌川広重の「江戸名所 隅田川の月」に分かりやすく描かれています。その広重の版画でも、月がテーマになっていて、月の名所だったようです。この作品の題は「今戸夏月」であり、夏の景ですが、千蔭の作品との類似が興味深く、あえて展示しました。

 

清親 今戸夏月

  井上安治  

井上安治

「東京真景名所図解」は安治の代表作ですが、当館所蔵のものは、画帖に貼られ、紙箱に入っています。画帖の表紙の題簽には、「東京真景名所図」という題があり。表紙裏と箱の蓋裏には「画帖師 錦絵問屋 具足屋」のシールが貼ってあります。「具足屋」は、この版画を出版した福田熊次郎の屋号です。ですから、当館所蔵のものは、発売当初の状態を保っていると思われます。

 

井上安治